Snow Queen 3

 

 彼は非常に興味深い披検体だと、呉梨華は言っていた。

「どうにもLT値が安定していないのよね、最低で600、最高で900

900?」

「そ、君より上よ、薙」

月詠学院で過去にそれほどの高数値をたたき出した人間はいない。

しかも落差が300、これでは優秀かそうでないかの判断はかなり難しいだろう。

天照学院の生徒は「転生」といって先天的な霊能力者なのだと聞かされていた。

人工的な自分たちより能力の勝る、力を持って生れてきた存在。

管理されている分、こちらの方が数値は安定しているようだが、それだけに彼に秘められた潜在能力は計り知れない。

天照館高校からやってきた交歓留学生、名前を秋津豊。

「面白いな」

ごく小さな声であったのに、梨華は聞き逃さずに眼鏡の下の瞳を丸くした。

「あら、他人に興味を持つだなんて、あなたにしては珍しいわねえ」

そんなんじゃないさと言い捨てて、薙はモニター室を後にした。

言葉とは裏腹に、彼は確かに秋津豊に心惹かれる自分を自覚しつつあった。

 

 月詠学院に来てからすでに二週間が過ぎようとしている。

ペンタファングの面々以外、親しく付き合うような生徒もなく、更に言うなら飛河達とも同じ組織のメンバー以上の交流はなかった。

豊は学院で浮いた存在だった。

天照館の制服を着ているせいもあるのだろう、どこに行っても誰も無関心で、話しかけてくるものもなく、話しかければよく無視された。

「あーあ・・・」

厳しいカリキュラムのおかげで学院内にいる間他の事を考える余裕すらなかったが、寮に戻ると改めて孤独が身に染みた。

この頃はよく天照館の夢を見る。

「俺、寂しいのかなあ・・・」

色のない室内で、豊はぽつんと呟いていた。

部屋着のシャツとジーンズ姿でベッドの上でごろごろしつつ、天照郷にいる親しい人々の顔を一人ずつ思い出しては、彼らは今何をしているのだろうと思いを馳せる。

不意に、ノックの音が聞こえた。

「うん?」

豊はベッドサイドに起き上がって、首だけそちらに向けた。

「はい、どうぞ」

呼びかけるとひとつ間を置いてノブが回り、断りもなく人が入ってくる。

姿を見て豊はちょっと驚いたように目を丸くした。

「飛河・・・」

薙はベッド脇まで歩み寄ってきた。

「何?また召集?」

初めてのことに豊は多少動揺しつつ尋ねる。

薙が豊を呼びに来ても、彼は中に入るどころか室内を伺うそぶりすら見せた事がなかった。

それなのに、今日は一体どうしたというのだろう。

居心地の悪さになんとなくモジモジしていると、薙が上からじっと豊を見下ろしてくる。

「飛河?」

白色灯の光に縁取られて、陰になった彼はいつもと違う気配がした。

色素の薄い瞳が金色に輝いているように見える。

「飛河、用事があるんじゃないのか?」

突然伸びてきた手が豊の髪に触れた。

「用ならある」

ようやく聞こえた声色の暗さに、豊は無意識に身を硬くしていた。

「僕は、君を知りに来た」

「え?」

驚く間もなく肩に触れて、薙の両腕が力任せに豊を押し倒す。

のしかかられるまま、豊は抵抗すら思いつかなかった。

「な、何・・・」

唖然と天井を眺めていると、薙がシャツを手繰りあげて手を内側に滑り込ませた。

指先が胸元の突起を見つけ出して、ようやく状況を把握した豊は顔色を青く染める。

「や、やめろ、何するんだ!」

慌てて身をよじって彼の下から逃げ出そうとする。

「やめろって!飛河?!

振り回していた腕を押さえつけられて、叫んでいた口元に思い切り吸い付かれた。

目を見張る豊の口腔内に、薙の舌先がもぐりこんでくる。

「んっ、んん、んんっ」

瞳を閉じて、全身で暴れている間も薙の口付けは続いた。

いつも冷酷な彼からは想像できないような激しいキスに、思いとは裏腹に体中の力が抜けていくようだ。

豊は空いている方の手で薙の髪を懸命に掴んで引っ張ろうとした。

「っあ!」

その途端唇を引き剥がされて、無理やりうつ伏せに体勢をかえられる。

ジーンズのボタンを開けられて、手早くチャックを下ろすと膝辺りまで引き摺り下ろされた。

「や、やめろ、何考えてんだよ、オイ!」

慌てて振り返るより先に、後ろ手に両腕を捕まえられて、そのまま上体を抱き起こされてシャツを脱がされる。

腕を引き抜かずに途中で縛り上げて、簡易作成の拘束具代わりに豊の動作を奪った。

「やっ・・・?!

シーツの一部を口の中にねじ込まれて、言葉まで奪われた豊の耳元で薙が囁いた。

「君に、興味があるんだ」

豊は衝撃を受ける。

いつもと同じように感情の混じらない薙の口調。

けれど今は違う、その中に、確かに燃え上がるような激情が潜んでいる。

胸元に触れる感触とは別に、もう一方の手が豊の下肢にそろりと伸ばされた。

ぎょっとして体を縮こまらせようとすると、容赦ない動きが豊を抜き始める。

「んっ・・・ふ、んん、んんん!」

イヤイヤをするように首を振って薙を見たが、彼は無表情で行為を続けていた。

(うそだ、こんなの・・・イヤだ!)

ベッドに押し付けられたまま、薙の掌が豊を弄ぶ。

表面を擦り、節を指先でなぞって、時折先端に軽く爪を立てられた。

じわじわと追い上げられて、豊の意思とは裏腹に手の中の局部は先走りの雫を滲ませていた。

薙のもう一方の手が乳首を嬲り、首筋を這う唇が時折強く表皮を吸った。

豊は瞳を硬く閉じて、押し込まれたシーツの合間から荒い呼吸を繰り返していた。

「うっウウ!」

付け根を強く抑えられて、豊の体がビクリと震える。

下の方に触れて、そこを優しく揉まれると脳裏に稲妻が走る。

ハッと目を見開いて、更に何度か擦られるとそれ以上は我慢できなかった。

豊はくぐもった悲鳴と共に、シーツの上に精をほとぼらせていた。

「う・・・うう・・・うっ・・・」

涙混じりに呻く背後で、起き上がった薙は手に付着した白濁色の生暖かい液体をじっと見詰める。

「これが、君の体液か」

豊は絶望的にその場に突っ伏していた。

友達も誰もいない、孤独な、こんな場所で、よりにもよって薙に辱めを受けた。

(こんな、こんなことって・・・)

なぜだか分からないが、涙がこみ上げて止まらなかった。

怒りより、屈辱より、悲しい気持ちが勝っている。冷たい薙の声が心を切り裂くように痛い。

不意に、ぬるりとした感触が下肢に触れた。

豊の体がビクリと震えた。

(な、何・・・)

自分でも触った事の無いそこにヌルヌルした何かがこすりつけられて、不意にぐっと指先が入り込んでくる。豊は悲鳴をあげそうになった。

(うそだ・・・)

薙は丁寧に襞を一つ一つほぐし始めた。後の行為に差支えがないよう、時間をかけて豊の後ろを緩く慣らしていく。

「ん、んっ、んん、んん・・・」

豊は不条理に必死に耐えていた。シーツを噛み締めて、今起こっている事に少しでも鈍感であろうとする。

けれどそんな心中を見透かすように、薙は執拗にその部分を攻め続けた。

一本指が入るようになると、更にもう一本。

潤滑油のようなものを合間に混ぜ込みながら、徐々にそこを押し広げていく。

「・・・もう、いいか」

どれくらい時間が過ぎたのだろう、短い呟きと共に急に開放されて、グッタリ沈み込みながら豊は股間の疼きを持て余していた。

濃密な薙の愛撫に反応して、豊の局部は再び力を持っている。

体だけ、別の生き物のようだった。豊は望んでいないのに、全身がひどく火照り、熱い。

(こんなのうそだ、俺は、こんなこと望んでない)

どこかで衣擦れの音がしていた。

ぼうっとしていると片方の肩を掴まれて、ほぐれた下肢に硬いものが押し当てられる。

豊は、ハッとして本能的に逃げ出そうとした。

それは意識だけで、実際体は少しも思い通りになってくれなかった。

「う、う、ウウ、ウウウ?!

ず、ず、と異物が進入してくる。

それは先ほどまでと比較にならないほど膨大な質量と熱を伴っていた。

引きつる豊をなだめるように、押し込む合間に薙の手が豊自身を抜いていく。

く、と薙はきつさを堪えているようだった。

進入口に力がこもるたびに生殖器を擦られて、だんだん奥まで入り込んでくる感触に思考は奪われていく。

涙が、頬を伝って落ちた。

やがて、すっかり入りきったことを確認して、薙がゆっくりと動き始めた。

ん、うん、と、動作にあわせて豊の声が漏れ始める。

最初は慣らすように動いていたものが、だんだんと速度を増して、やがて快楽を求めるように薙は豊を攻め立て始める。

擦り、突き上げて、揺するようにして深く浅く何度も出入りを繰り返す。

抽挿のたびに濡れた音があたりに響き、横紋筋が程よく薙を締め付けた。

背中にのしかかり、片腕で半裸の豊を抱きしめながら、もう片方の手で引き続き局部を抜いていた。

豊の脳裏は真っ白だった。

ただ奪い、そして与えられる快楽に必死にすがり付いている。

時折聞こえる息遣いが、薙に抱かれているのだという実感を与えていた。

「秋津・・・秋津・・・」

繰り返される囁きに、豊自身無意識に腰を振って応える。

言葉の合間にキスをされて、その間も薙の男根は容赦なく豊を欲し続けた。

噛み締めたシーツの隙間から、鳴き声とも喘ぎ声ともつかない豊の声が途切れることなく上がり続ける。

繰り返される行為に、昇り詰め、やがて堪えられないほどの快楽に体中が震えだす頃、薙がひときわ高く豊を突き上げた。

「ンンッ!」

悲鳴をあげて、その瞬間、内側に熱いほとばしりが叩きつけられる。

「んっ・・・んんん・・・ウウ・・・」

豊もほぼ同時に薙の手の中で絶頂を迎えていた。

体中が満たされるような充足感と共に、胸にぽっかり開いた穴から涙がとめどなく溢れ出した。

挿入されたままで、豊は泣いていた。

しゃくりあげる背中から薙が起き上がり、質量を引き抜くと行為の名残が太腿を伝って流れ落ちた。

「秋津」

薙は髪に触れて、それから無言で両腕を拘束していたシャツの結び目を解き始める。

着ていた衣服を脱がせて、汚れた下肢を手近なティッシュペーパーで拭い取った。

下着とジーンズを履かせなおすと、仰向けにベッドに横たえて隣に膝を付く。

「どうして・・・なんで、こんな・・・」

男の癖に大泣きして恥ずかしいだなんて、考える余地すらない。

零れ落ちる涙を何度も拭って、薙は豊が泣き止むまでそばについていた。

赤くはれ上がった瞼が重い。行為の済んだ体はどこもかしこも鉛のように重くて、豊の意識は徐々に眠りの中へ沈みつつあった。

薙の手が額に触れた。

豊もその手に触れようとして、そのまま瞳を閉じていた。

やがて聞こえ出した安らかな寝息に、薙はゆっくりと立ち上がる。

眠る豊を見詰めて、自分でもよくわからない気持ちを持て余していた。

「秋津君」

そっと髪に触れる。

「君の事、前よりは少し分かったような気がするよ・・・」

月の裏側を、こちらの人間は誰も知らない。

薙の心の内側を知るものも、誰一人としてなかった。

淡白な色みの室内灯の光だけが、無機質に二人の姿を照らし出していた。